学校教育におけるモビリティ・マネジメント

-交通需要マネジメント(TDM)の一環としての環境学習-

これまでの交通渋滞など交通問題の解決は、道路整備など道路を作る側や路線バスを走らせる側(供給側)からの整備や対応が行われてきましたが、その考え方には限界が生じてきたため、交通を使う側(需要側)の視点から、自動車利用者の行動を変えることにより、交通問題を解決していこうという動きがはじまっています。 当社は、神奈川県H市において、学校教育におけるモビリティ・マネジメントとして、交通需要マネジメントにおける環境教育を行いました。

1.小学校高学年向けTDM教育の実施

この業務は、小学校高学年の皆さんを対象に、交通手段によるCO2の排出量の違いを比べることによって、普段の生活の中での移動の仕方を見直すきっかけにしてもらおうと行ったものです。H市では、従来から、学校教育においてTDMの環境学習に取り組む動きが取られ、全国的にも先進事例として紹介されています。

本業務では、モデル校2校を含む小学校7校を対象に交通スリム化教育を行いました。また、これらの環境教育が教育現場主導での継続的な取り組みになるように、教職員を対象に事前の研修会も実施しました。

2.学習手順(のりものシールを使ったTDM教育)

普段利用している施設や遊んでいる公園を使ったお出かけプランを作成して、CO2による環境への影響を考えます。

まず、担当の先生より、視聴覚室等で地球温暖化の影響・原因や外出の際、目的地によって自家用車と公共交通を使い分けることのメリットなどをスライドで説明します。

説明用スライドには当該地域にあった情報を盛り込み、子どもたちの興味・関心を引くよう作成します。

その後、各教室に戻り子どもたちが、1人ずつ身近な場所でのお出かけプランを作成します。子どもたちにとって身近なスーパーマーケットや公園などを自由にめぐり、バス・電車の運賃計算、CO2量の算出まで、教室内で子どもたちに直接アドバイスしながら進めていきます。

赤い点線で囲った部分を子どもたちで自由に決めます。ただし、1人1枚の交通手段カードを引かせ、引いた交通手段は必ず1回は使うことを条件とします。

プランの作成はA3の用紙に交通手段シールを貼りながら楽しく行います。

バスや電車の料金の算出については実際の料金を用いて表形式にまとめ、一目でわかるような教材を作成します。CO2排出量やカロリーの算出など、子どもでも簡単に計算できるシートを作成しますので、電卓を使いながら時間をかけずにカリキュラムを進めることができます。

1クラスにつき1名の補助員(当社社員)が指導にあたりますので、教室を見回り、子どもたちがつまずいた時には、アドバイスします。

お出かけプラン作成後は班ごとに代表プランを選出させ、アピールポイントについて意見交換したあと、大判の発表用紙に代表となるプランの「お金」「時間」「CO2」「カロリー」を大判の用紙に書き出します。

これを黒板に貼り出し、アピールポイントや工夫したところを発表し合います。

「カロリー消費で肥満解消プラン」や「坂道を利用した帰り道らくらくプラン」「忙しい人に向けた時短プラン」などプラン名をつけて、子どもたちに楽しく説明をしてもらいます。班ごとに1プラン、1クラスで4~6プランほど発表した、担任の先生より講評してもらいます。「このプランは一番時間がかかっていない」「このプランはCO2の排出が一番少ない」など、各プランの特徴を比較します。

カリキュラム終了後に子どもたちに感想文を書いてもらい、地球環境と交通の関係についてどのように理解しているかを確認します。

3.実際にクルマを使う保護者への広がり

カリキュラムの内容については、児童用と保護者用の小冊子を作成し、子どもたちが帰宅し、持ち帰った小冊子で、家族の方に授業の内容を説明してもらいます。

学校教育モビリティ・マネジメントでは、このように子供たちへの教育をきっかけとして、実際にクルマを使う保護者への広がりを期待しています。

4.学校に準備していただいたもの

実際の授業当日に、学校で準備いただいたものは、次の三点のみです。

・プロジェクター(視聴覚室など)

・黒板(通常の教室等)

・電卓

使用する教材やシールは当社で準備しました。

なお、大判の用紙を使用しましたので、後日廊下へ掲示して、各クラスとの比較を閲覧することもできます。

5.学習のポイント

交通手段カードによって使用する交通手段の条件をつけることによって、「おじいちゃん、おばあちゃんと一緒な場合」「弟や妹と一緒な場合」「友達同士の場合」など、日常の場面に照らし合せ、“必要に応じて最適な交通手段を選択する”ということが学べます。

小学五年生の産業学習の期間に本学習を設けることで、より「クルマ」という交通手段について考える機会を与えることができます。

6.まとめ

授業の当日には、父兄の方も参観にみられ、H市の未来のため、地球環境のために学べる良い機会だとの感想をいただきました。

また、子どもたちの授業後の感想文でも、プラン作成の前段で説明するスライドの内容について、「今まで知らなかった」という感想が多く、他都市と比較してH市の方がCO2排出量が多い、というスライドの内容を指して「CO2の排出量が多くて驚いた」といったような印象を受けた子供たちもいました。

今回実施したような小学校高学年向けの環境教育では、子供たちの素直な感受性や前向きな知識欲に触れることができます。教育現場での環境学習は、一つ一つが地道な取り組みですが、子供たちへの働きかけとしては確実な一歩になると考えます。もっともっと多くの自治体で、こういった教育現場での取り組みが行われることを願っています。

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